石川 日出志さん
悠大な時間の中に埋もれた歴史。
想像力と可能性で耕し、未来へ繋いでいく。
様々な想像力と分析で歴史を紐解いていく考古学の世界。年に一度の一般公開となる泉崎横穴にも歴史のロマンが詰めこまれているようです。今年5月に日本考古学協会会長に就任した、福島県文化財センター白河館・まほろん館長の石川さんにお話を伺いました。
── 考古学ってどういう学問?
歴史を学ぶ分野の一つです。文字記録ではなく、昔の人々の普段の暮らしの中にあった意図せずに埋まっているものを見つけ出して、分析し語りかけることで、歴史を描き出すのが考古学ですね。
── 考古学に魅せられた最初のきっかけは?
実家は新潟で農家を営んでおり、もともと太陽の下で土をいじるのが好きでした。地理歴史部に所属していた高校2年のときに、顧問の先生の発掘を手伝った際、自分が掘り起こした土器の模様が図鑑に載っている弥生時代の土器の模様と同じだったことに感動し、考古学の面白さに魅せられました。ちなみにこの土器は白河市で出土した天王山式土器というもの。半世紀を経て白河で仕事をするようになったことに不思議な縁を感じます。
── 考古学の魅力とは?
一つは、土の中に埋もれている誰も見たこともないものを、一番に見つけ出すという発見の喜び・面白さ。もう一つは、すでに発掘されているものを新しい見方で検討し直したときに新しい歴史像を発見する喜びですね。以前、江戸時代に作られたと言われていた金印があったのですが、改めて研究すると遥か昔、中国が後漢の時代にしか作ることのできない金印だと分かったこともありました。想像力を働かせ、多くの可能性を見出して、試し、事実に近づいていく。考古学は学ぶ人に平等で、大先生が気づかなかったことに、学生が気づくこともある学問です。
── 「まほろん」とはどのような施設ですか?
県が発掘調査した資料・データを将来に引き継いでいくための保存収蔵と同時に、イベントや企画展示を通して歴史の面白さ・大切さに気づいてもらう中継ぎの役割を担っています。特に子どもたちには遊びを通して学べる体験型ミュージアムとして楽しい施設でありたいですね。
── 泉崎横穴について教えてください。
6世紀から7世紀につくられた装飾古墳で、壁面に赤い顔料で人物などの壁画がダイナミックに描かれています。このような古墳は熊本県・福岡県に多く見られますが、茨城・福島・宮城三県にも見られます。また当時の歴史を紐解くと九州から東北に文化が伝播往来していることにも驚きます。壁画を未来に繋げていくためにも、人数制限を設けながら、古墳の外と中の気温・湿度が適した毎年、10月第2土曜日に一般公開しています。ぜひ理屈でない本物の迫力を感じてほしいです。
── こみっとの読者へメッセージ
白河がもつ自然の豊かさの素晴らしさ大切さを住んでいる人にこそ気づいてほしい、探してほしいと常々思っています。また、考古学に触れる機会は少ないですが、考古学ってどんなだろうってちょっと覗いてみてください。ものの持っている力に触れてもらって、考古学って面白いねって思える時間を作ってもらえればと思います。その中で、まほろんがきっかけのひとつになってくれたら良いですね。
◆[プロフィール]◆
考古学者・まほろん館長
1954年11月27日生まれ
69歳、考古学者
新潟県阿賀野市生まれ、
新発田高・明治大学文学部卒、
明治大学大学院文学研究科
史学専攻博士後期課程中退後、
明治大学文学部助手、専任講師、
助教授、教授を経て、
2022年から福島県文化財センター白河館・
まほろん館長に就任。
2024年5月に日本考古学協会会長に就任。
弥生時代を中心とした考古学を専門とし、
金印「漢委奴国王」(かんのわのなこくのおう)
の研究にも取り組んできた。