栢本 直行さん
人と自然の関係性を見直しながら
これからの社会に求められる
新たなつながりを創っていきたい。
この夏、岩瀬牧場で生まれた仔牛「ベル」が暮らす牛舎を運営するのは、2016年に設立されたベンチャー企業「株式会社ハンドレッド」。明治時代の雰囲気はそのままに現代の機材を備えた牛舎を再生した栢本直行社長にお話をお伺いしました。
── 起業の理由を聞かせてください。
人と自然の距離感を見直し、新しいつながりを生む事業を創っていきたいと考えたからです。
いまの私たちの生活は、自然との関係性がとても希薄です。でも、これからは人が自然から恩恵を受けるだけではなく、人間社会が自然へ恵みを還すことが求められるようになります。そのために、できることはたくさんあるはずです。
── 御社の受賞製品もその一つですか?
ええ。実験動物の負担が少ない注射針や固定器具、トレーニング用モデルマウスの開発で評価をいただきました。
動物実験は科学の発展に貢献するものですが、動物愛護の面からは実施しない方が望ましい。そのため、実験の効率を上げたり、動物の苦痛を軽減しようという考えが世界的なスタンダードになりつつあります。今回の製品は、この「動物福祉」の視点に立って開発しました。
── 研究器材の企業がどうして酪農を?
人と自然の新しいつながりを創っていくために一次産業は外せません。これからは畑を借りて、野菜の生産も行っていく予定なんですよ。
健康な環境で育てた牛乳や野菜は、食べたときの満足感も、栄養価も、日持ちもまるで違う。そのような高付加価値を持った乳製品や作物を適正な価格で販売できれば、高齢化や後継者不足で悩む一次産業の状況も変えていくことができますから。
── 岩瀬牧場を選んだのは何故ですか?
観光牧場には、人・自然・動物をつなぐいい環境が整っているからです。それに、ここは国内初の国営西洋型牧場で、日本の酪農業発展の礎になった場所。歴史的なストーリーや建物のポテンシャルも活かすことができます。
もう―つは、福島の牧場だから。県外も検討しましたが、3・11で世界から注目される地元福島で活動し、発信していくことに価値があると考えています。
── どんな社会をめざしたいのですか?
私たちは、3・11と原発事故で、一極集中の弱さを知りました。エネルギーだけでなく、食料もサービスも同じです。
でも、地域内で資源を自給・循環できる小さなエリアがいくつもできれば、大災害が起きても柔軟に対応できるし、いざというとき、他の小地域から速やかに支援を受けることができます。将来は、須賀川市や鏡石町と連携し、小規模エリアで循環する経済モデルを創り上げていければと思います。
── 12月に就労継続支援もスタートしますね。
はい。ただ、障がい者雇用というより、やはり希薄になった人と人もつなぎ直したくて。障がいがあってもなくても、ご高齢者も若い方も、誰もが当たり前にいる環境づくりが理想です。
どれもバラバラに見えるかもしれませんが、全部ハンドレッドの理念の内にあるもの。今後も、枠組みを決めずに様々な分野に挑戦していくつもりです。
── 読者へのメッセージをお願いします。
動き始めたばかりですが、自然豊かな岩瀬牧場で様々な人がともに働き、学びあう環境を創造していきます。
一次産業に興味のある人、ここで働きたい人は、ぜひ気軽に遊びにきてください!
◆[プロフィール]◆
栢本 直行さん
株式会社ハンドレッド 代表取締役
㈱ハンドレッド代表取締役社長
南相馬市生まれ(43歳)
千葉県習志野で幼少期を過ごし、小学2年からは郡山市在住
安積高校・中央大学理工学部卒
㈱日本全薬工業で産業動物やペット用の製品開発に携わった経験を生かし、2016年6月に起業。
研究器材や動物用サプリメントの開発を軸に、今年、酪農業・就労継続支援B型をスタート。
2021年1月、地域課題に取り組む意欲的なビジネスプランを公募する「ふくしまベンチャーアワード2020」で優秀賞を受賞。