尾上克郎さん

特撮は、技術と知恵の結晶。
収蔵品はすべて世界に一つしかない宝物です。

 昨年11月、須賀川市岩瀬公民館跡に世界初の特撮文化継承施設『須賀川特撮アーカイブセンター』がオープンしました。
 これを記念し、日本の誇る特撮監督のインタビューを2回にわたりお届けします。
 

── 福島や須賀川との縁はいつから?

 須賀川は円谷監督の生まれ故郷であることは知っていましたが、震災後にイベントの話が持ち上がるまで、つながりはありませんでした。そのイベントが、2013年夏の「特撮塾@福島」です。会場には、当時は副知事だった内堀さんや、現須賀川市長、副市長もいらしていて、皆さんとお酒を飲みながら話すことができた。それがお付き合いの始まりです。

── センター開設までの経緯は?

 5年前、『特撮博物館』の全国巡回展終了後、展示した資料やミニチュアの収納場所が必要になりました。いくつかの自治体や企業から協力の申し出はありましたが、僕らの目指すものと合致するところがなかなか見つからなくて。それに、僕らには「できれば須賀川で」という強い想いもありました。そこで市長に相談したところ、「受け入れます」とお手紙をいただくことができた。センターが無事に開設できたのは、須賀川市のご英断のおかげです。

── センターのコンセプトは?

 めざしたのは展示施設ではなく、「特撮文化の正倉院」。見学ができる収蔵庫です。あくまで収蔵と研究がメインですが、皆さんにご理解いただくために見学コースを設けました。
 ここには、調整中でお見せできないものも含め、60年ほど前から現在のものまで現展示数の3倍ほどの量が収蔵されています。今後は、公開が可能になったものを順次入れ替えて見学できるようにしていきたいと思いますが、現時点では、特撮に親しんだ世代も、あまり知らない人も、まずは楽しみながら特撮に興味を持っていただければと考えています。

── 須賀川に対する印象は?

 第一に粘り強い人が多い!円谷英二ミュージアムの監修の話をいただいた時、実は何度かお断りしたんです。映画会社もOKしないだろうと思っていたのに、市の担当者が粘り強く交渉して壁をどんどん切り崩していく。それを見て「この人たち諦めないなぁ」と(笑)。最終的にお受けして展示物やパネルの文章などを監修させていただきました。
 それから、食べ物がうまい!お酒は間違いないし、僕の好きな桃も抜群。いだてんの撮影で須賀川に来た時に食べたお米もたまらなくて、家のお米はずっと福島産です。皆さん、一年中こんなうまいものを食べているなんて本当にうらやましいです!

── 監督が考える特撮の魅力とは?

 現実には不可能と思われることを映像化して、見る人をあっと驚かせる事ができる、そこが特撮の魅力ですね。
 特撮は、技術と知恵の塊です。映画に限らず、ものづくりには予算や効率が求められますが、それだけでは決して得られない良さ=常に探究し発見していく面白さを伝えられれば本望です。今回、センターのジオラマを自由に触ったり撮ったりできるようにしたのはそのため。特に子ども達には、どんな模型でどう撮れば本物に見えるか発見しながら、特撮を好きになってもらいたいですね。ここに収蔵された品はどれも本物で世界に一つしかない「宝物」。僕らと一緒に、皆さんも地元の宝物として愛し守り続けていただければ嬉しいです。
 

◆[プロフィール]◆
特撮監督・VFXスーパーバイザー
尾上 克郎さん(おのうえかつろう)

1960年6月生まれ(60歳)
鹿児島県出身
特定非営利活動法人
アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)所属
映画、コンサートを中心に美術、装飾、特殊効果として活躍。須賀川市tette内「円谷英二ミュージアム」総合監修。
シン・ゴジラ(2016)准監督・特技総括をはじめ、代表作「のぼうの城」(2012)「進撃の巨人・前編」(2015)「進撃の巨人・後編/エンド・オブ・ザ・ワールド」(2015)「NHK大河ドラマ「い
だてん~東京オリムピック噺~」(2019)
 
 

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